BGMとサラウンド

ゲームオブジェクト音声をサラウンドにするのは比較的問題が少い。プレイヤ(listener)もその他のオブジェクトも明確に3D空間位置を持つため、座標情報から正確にパンニングを行うことができる。
BGMの問題は難しい。映画音楽はあまり極端なパンニングを使わず、前方スピーカーで基本的な出力を行っている印象が有る。

"サラウンド音楽"の現状

鑑賞を目的としたサラウンド楽曲は時折制作されている。特に、SACDは5.1chオーディオをサポートしており、いくつかのライブアルバムで制作例が有る:

Pink Floyd等サラウンドに積極的な姿勢を見せたアーティストも一部に居るが、ゲームBGMとして普及している、いわゆるポピュラー音楽では現状サラウンドはポピュラーでない。

During the Q&A portion, Guthrie confirmed he’d like to do more Pink Floyd 5.1 mixes, but that it often comes down to a matter of the time available on his and the band’s collective schedules, so “don’t hold your breath.”

現状のサラウンド音楽は、いわゆる"録って出し"ではなく、(ステレオ楽曲と全く同様に)ある程度の演出意図を持ってミックスされる。(ちなみにPink Floydは初期のサラウンドであるQuadraphonicレコードも出していて、ライブ演出でも専用のpannerを使用している - http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Azimuth_Co-ordinator_used_by_Pink_Floyd_VA.jpg )
元気ロケッツSonyと制作したmake.believeは3D映像と5.1chオーディオという作品となっている。

__なるほど。音で立体感を表現するために、どんな手法を用いましたか?

玉井「聴き手の周囲をぐるぐる回る音や、星が通り過ぎる音などを入れています。Lumiが耳元で歌っているように聞こえる部分もあったり、2chのステレオではわかりづらい部分が、本作では鮮明に聴こえると思います。あと、音で人を気持ちよくさせたり、ビックリさせたりする方法があるんだけど、そういうテクニックを超越して、もっと人の心をゆさぶる表現があるんです。今回は、そうした部分を大事にしました」

音楽にフォーカスしたゲームでは、(このジャンルの人気が限定されていることもあってか、)RezHDくらいしか無い。

(記憶が正しければ、)Rock bandDance central等は全てステレオのゲームとしてリリースされている。[要検証]
音楽ゲームを除くと、サラウンドなサウンドトラックはAAAタイトルではよく採用される傾向が有るように見える。Infamous Second Sonは別配布されているサウンドトラックアプリでもサラウンド再生に対応している。
アーケードゲーム等も、設置性の問題からか殆どサラウンドは採用されていない。ナイトストライカー等がリアスピーカを持つゲームとして知られている。

制作

率直にいってあまり普及していない。納品形態の問題(ミキシング後のものを入れて演出とマッチさせるのはより難しい - サラウンド環境では問題が強調されてしまう)や、そもそもサラウンド制作が可能な人材の不足という問題が有る。
サラウンド制作について述べた文章や書籍はいくつか有るが:

例外なくモニタリング環境の重要性を強調しているように感じる。モニタリングの重要性はステレオでも同様だがサラウンドにおいてはさらに強調する価値がある。
大手のゲームスタジオは専用の設備を持つことも多い。(SCEAは3Dオーディオのための専用設備まで保有している!)
個人的には、既にディスクリート5.1ch環境については、いわゆる"自宅スタジオ"では困難なフェーズまで来ているのではないかと感じている。
より悪いのは、現状の(事実上)全てのプラットフォームは何らかの形でサラウンドをサポートしているとは言え、これを要求仕様とすることはかなり難しい点が有る。PS3/Xbox360の世代ではモノラル出力を配慮する必要が無くなり、PS4/XboxOneの世代ではついにPALテレビに対応する必要が無くなったものの、未だにステレオ出力は重要なrequirementと言える。

システムマスタリングプロセス

Dolbyはライブ音源等へのDolby Atmosの適用を提唱しているが、同様のアイデアがBGMトラックのサラウンド化に適用可能かもしれない。
例えば、BGMはリバーブ成分を落して必要に応じてトラックに分割した状態で収録し、システムに接続されたサウンドシステムやリスニングルームの性質により適切なエフェクトを付与するなどの"ポストプロセス"を行う。等。
バーブの分離等、音声の伝達特性部分をBGMに収録しないことで、BGMにより明瞭なフォーカスを与えることができる。リアルタイムリバーブは品質の問題が有るので、2chは専用ミックスを用意する等が必要かもしれない。
ビジュアル部分に関しては、ゲームアセットは一定のスケーラビリティを提供している。単純なストリーミング楽曲を見直すことで、同様のスケーラビリティをオーディオアセットでも提供できるのではないだろうか。