ドルビープロロジック/マトリックスサラウンド

TODO: Xonar U7を買って検証する(多分ドルビー自身の実装で一番安い) なんとマルチチャンネル出力ではProLogic IIxは使えないようだ。。

ドルビープロロジック II のような表記が有るゲームはそれなりに存在する。プロロジックはアナログ方式のサラウンドとして2chのアナログ信号に4chないし5ch分の音声を押し込んでいる。
良いポイントは、このエンコードにはアナログ2ch再生との再生互換性が有る点で、プロロジック非対応のサウンドシステムでも普通の2ch音声信号として聴取が可能となっている。Web上の動画で多チャンネルエンコードをしたければ、良い選択肢となりうる。
プロロジック方式の概要は、かないまる氏のページにある解説が参考になる。

つまり、プロロジック方式は、ステアリング処理(方向性強調)とマトリクス処理(チャンネル合成)の組合せで構成されていて、これらが上手く働くようなミキシングが要求されている。

エンコード

エンコードに使用されるマトリクス係数は例えばWikipediaに言及が有る:

出典は特に示されていないが、ドルビーの出している技術情報に同様の記述が見られる。
ドルビーはリファレンスエンコーダとしてDP563を提供している:

もっとも、これは単にリファレンスというだけで、エンコーダそのものはこれと同じアルゴリズムでなくてもドルビープロロジックを名乗ることができるようだ。

例えば、CRIのエンコーダは90度位相シフトの代わりにディレイラインを使用している。位相シフトをDSPで実現するには、一度周波数領域に戻して位相をずらすことが一般に行われるが、ミキサーで行うには処理負荷の問題が有る。
ffdshowやAC3Filterの実装はFFTを使用しているように見える。よりリファレンスに近いPC向け実装としてはSurCodeが知られている。
SRSは似たようなエンコード技術(Circle surround)を提供していた。SRSは、AVアンプにCircle surroundモードが無い場合はDolby Pro Logic IIモードを推奨しており、両者は近い特性を持っていることを伺わせる。

CS IIは、モノラルやステレオ、あるいはDolby Pro Logic、Dolby Pro Logic IIサラウンド・システムなどの他のマトリックスデコーダを含むすべての再生環境に対応します。

経験的には、エンコードアルゴリズムに含まれる90度の位相シフトは無かったり180度(つまり波形反転)であっても効果は大きく変わらないことが多いように思える。
Dolby Pro Logic IIには、"music"モードが存在する。このモードは完全に謎で、既存のエンコーダでもサポートしているものはみあたらない。単純なエフェクトなのかもしれない。
プロロジックエンコードは位相のシフトを伴うため、楽曲中にディレイ効果を含んでいる場合は"打ち消し"に注意する必要がある。つまり、ディレイタイムが位相のズレ(数十ミリ秒であるため、十分にヒットするチャンスが有る)と重なってしまうと、音が消えてしまう。バーチャルヘッドホンやシネマDSPのようなディレイ成分を付加するエフェクトでは、より結果が悪くなる。
位相反転でサラウンドを実装している場合は、モノラルへのダウンミックスで音が消えてしまう危険も有る(例えばLFEチャンネルをバスマネジメントを持ったサウンドカードから出力しているケースでは、モノラルへのダウンミックスが発生する)。

デコード

デコードは混沌としている。
AVアンプの一部(多く?? - 機能したためしがない)はプロロジック信号を自動で検出するわけではないので、エンドユーザに"シネマ"モードを選択させる必要がある。AVアンプのデコードモードとして"シネマ"と"ミュージック"が両方存在することが多い。これがPro logic IIの2つのデコードモードに対応する。(Pro logic IIx?には、さらにゲームモードが存在する...)
そもそも、大半のユーザはPCに接続されたAVアンプを持っていないため、サラウンドを選択肢として提供するか自体が絶妙なポイントと言える。位相をずらした波形成分は良く定位しないため、2スピーカ環境でもサラウンド感を提供する可能性は有る。とにかく、昔のスーパーファミコンのゲームのように、モノラル/ステレオ/サラウンド の3択を提供することになるだろう。
ゲーム機やPCから、再生デバイスがPro logic IIに対応しているかどうかを問合せることはできない。このため、手動の選択がどうしても必要になってしまう。
PC上では、PowerDVD等は動画再生時のデコードに対応しているが、リアルタイムソースをデコードする方法は無い。ASUSのXonarが(ドライバにDolbyを採用しているため)デコードに対応している。また、一部のメーカー製PCでも、Dolbyホームシアターによってサポートしているケースが有る。もっとも、これらのデバイスではそもそも6ch/8ch出力そのものが使用できるためプロロジックを採用する必要性が薄い。

サポートの是非

プロロジックは興味深いテクノロジでは有るが、実用的価値というと中々難しいポイントに来ている。
現状、プロロジックを再生できるデバイスの殆どはディスクリート5.1chを(Dolby DigitalやDTS等の圧縮で)再生することができる。このため、インタラクティブエンコードにはあまり魅力が無くなってきていると言える。
プロロジックエンコードを施されたコンテンツは非常に多いため、近い将来に再生環境が消滅する可能性は低いと考えられる。が、タブレットやゲーム機のようにこの手の2chサラウンドに対して無頓着なデバイスも増加傾向にあるので予断は許さない。Video On Demandサービスをset top boxで受けるようなユースケースでは、AVアンプによるサポートが問題となる。Video On Demandサービスにおいても、タブレットのようなモバイル環境での視聴は増加傾向にあるため、据え置き設備を要求するサラウンド環境も立場が弱くなっていくかもしれない。
動画配信のようなネット動画では2ch配信が前提となっているので、興味深いユースケースとなりうるかもしれない。しかし、手動でのデコーダの設定が必要なケースが多く、Razer Surroundのようなバーチャルサラウンド系システムでは通常サポートされていない。