DTS:Xが発表される

dtsが当初予定から少々遅れてDTS:Xを発表した。

同じオブジェクトベースオーディオフォーマット規格であるdolby Atmosと比較すると、この2つはよく対応していることがわかる:

dolby Atmos DTS:X memo
劇場用規格 dolby Atmos DTS:X DTS:Xは劇場システムベンダのGDC Technology(香港)をパートナーに劇場にも展開されることになっている
家庭用規格 dolby Atmos Home DTS:X DTS:Xは家庭用のためのブランドを用意していないように見える
オブジェクト数(劇場用) 128 不明 Atmosの128は通常の7.1mixを含む
オブジェクト数(家庭用) 不明 不明 いづれもSpatial codingを適用していると見られる
チャンネル数(劇場用) 64 不明
チャンネル数(家庭用) 24.1.10 32 実際の製品がサポートするスピーカー数はより少い
トランスポート(家庭用) Dolby TrueHDまたはDolbyDigitalPlus DTS HD Master Audio DDPは帯域が大きく異なるためサブセット実装と見られる DTS:Xはlossyバリアントの扱いをまだ表明していない

DTS:Xで興味深いのは"調整可能"を掲げていることで、公式サイトの記述では:

You are in control of your listening experience. That hard-to-hear line in a movie can be improved at a touch ― lift the dialogue out from the background sounds when you want clarity and experience a more personal entertainment experience.

どちらも、既存のlosslessオーディオストリームフォーマットに埋め込む形で実装している。

DTS HD のホワイトペーパーは各種ストリームをかなりわかりやすく解説している。AtmosもDTS:Xも(家庭用は)、彼らの"拡張可能"なオーディオストリームを使用して実装している。これは、Blu-Rayプレーヤー側が明示的に対応しなくても、AVアンプ(AVR: AV Receiverとも呼ばれる)さえ対応すれば実装可能であることも意味する。また、正常なプレーヤは拡張部分を安全に無視するため後方互換性も安全に確保することができる。もっとも、Dolby Atmosでは、リバースエンジニアリングによってDolby TrueHDを実装しているデコーダで正常にデコードされない互換性問題が有った。
また、どちらのフォーマットも家庭用と劇場用を持つ。dtsは現状むしろ家庭用の方が本業なので劇場版の立ち位置はイマイチ不明だが。。

家電ベンダの支持が広がらない問題

Dolby Atmos、DTS:XともにSonySamsungのような家電ベンダには支持されていない。彼らのようなベンダにとってはAtmos/DTS:XをATSC3.0のようなTV規格に先行させることはメリットが無いのかもしれない。
MSやAppleはそもそもBlu-Rayのようなディストリビューションフォーマットそのものを支持していない。MSはWindows8でDolbyDigitalPlusを標準CODECの一つに追加したが、それ以上の動きは現状無い。
代わりに、Dolbyやdtsは自前のオーディオソリューションを(通常の据え置き家電を飛ばして)モバイルに広げようとしている。現実に、Amazon Fireは(Amazon Instant Videoの都合で)Dolbyのオーディオソリューションの熱心な支持者でもある。Amazon FireはDolbyの開発者サイトで一番左端にある https://developer.dolby.com/tools-tech.aspx#kindle
dtsも自前のバーチャルサラウンドシステムであるHeadphone:Xを熱心に拡販しており、おそらく、DTS:XもHeadphone:Xエンコード済ストリームとしてモバイルに広げていくことになるだろう。
家電/PCベンダの関心の低さは、インタラクティブコンテンツへの応用に影を落としつつある。VRは可能性の有る分野かもしれないが、少くともOculus/Mopheusは自前の3Dオーディオを採用しており、直接的にAtmos/DTS:Xの設備を生かすモチベーションが存在しない。
言い方によっては、家庭用のオブジェクトオーディオ規格は、映画体験をパッケージして家庭に届けるという意味で失敗しつつあるのかもしれない。5.1ch、7.1chサラウンドや1080pビデオは良く支持され様々な方法でdeployされている。例えばサラウンドオーディオであれば、ディスクリート5.1ch実装からサウンドバーによるバーチャルサラウンドに至るまでの実装が有る。