B-CASとはなんだったのか

追記 :
ソフトウェアCASは他所で定義されていたので置き換えた。
今読んでみると内容が錯綜してるのでまとめると、

  • 復号をソフトウェアに任せる方法を許可しようとしている(いわゆるソフトウェア方式)
  • これを許可すると、地上波チューナ+PC側でのデコードという実装が出るに違いない(注:僕の予想)
    • ↑を阻止しないとそもそもB-CASとはなんだったのかと言われかねない(このエントリの要旨)

もちろん、このまま上手く行った"最初の"例になる可能性が無いわけでもない。例えばCPRMのような(PCでの実行に関しては)外部認証に頼る実装が考えられる。

以前の内容

追記 : このエントリはいろいろな点で間違っているらしい

僕は"Trustedでないプラットフォーム上でのコンテンツコントロールは嫌がらせでしかない"という立場なので、プラットフォームとしてのPCを低く評価しすぎているかもしれない。実際、各種のDRMskypeのように(大多数の人間に対して)嫌がらせが成功している分野もある。
中立的に表現すれば、PC上で動作するソフトウェアCASソフトウェア方式の実装は(現在のB-CAS同様)"BD程度には成功できる"。それが十分かどうかには議論の余地が有る。
↓で問題にしているのはルールを破るためのコストの低下で、つまり、ソフトウェアCAS方式は現状のルールを維持できない程度まで違反のコストを下げてしまうことを懸念している。

以前の内容

しかしコンテンツを暗号化するだけなら、DVDに使われているCSSのようなソフトウェアで十分であり、B-CASカードは必要はない。

つまり、その暗号化の保護レベルもDVD程度になる。周知の通り、DVDはコピーされ放題になっている。
もっとも、実際にはCPRMAACS程度(つまり、BDや録画した地上デジタル放送程度)に強化することは十分に可能だろう。逆に言えばそれ以上には出来ず、結局のところ(B-CAS時代よりも)保護レベルは向上しない。
仕様開示方式 とは、すなわち"仕様を秘密にすることによるセキュリティ"ともいえる。これは単に"イヤがらせ"程度の効果しかない。資料( http://www.soumu.go.jp/main_content/000028405.pdf )の表現では、

? 専門知識を有する技術者が時間と労力を使わないと、迂回、改竄などができないレベルのセキュリティが確保された方式。

となっている。もちろん、現状こそが専門知識を有する技術者が時間と労力を使った結果である。

結果 : フリーオが安価になる

(コストダウンのために)この方式を採用するというのは何を意味するかというと、"市販のPC向け地デジチューナを全部フリーオにする"のと等価だといえる。
フリーオやPT1、他のいくつかの地デジチューナに関して、暗号のハンドリングを行うソフトウェアは既に存在しており、これらをアップグレードすることで"無反応機"は市場に存在しつづけることになる。
もちろん、バンドルソフトは各種の嫌がらせを実装することが出来るが、バンドルソフトを使ってもらえないケースではこれらの仕組みは完全に無力になる。
販売の差し止めなどを想定してはいるが、この想定では、エンドユーザが悪いソフトを使う場合に全く対処できない。また、PC上で動作することを前提とするなら、ユーザが悪いソフトを使うことを禁止する保護手段は原理的に実装できない。

対応策 A : あきらめる(現状の保護レベルで満足し、ユーザビリティの向上に振る)

結局のところ、無料放送を暗号化する意義は殆ど無い。放送を的確に保護し、HDMIなどの手段を適切に実装したところで、アナログホールは残り続ける。
後ろ向きなアイデアに思えるが、そもそも、現在の放送と互換性を保ったまま放送を保護するのは単純に不可能といえる。
従来の放送でも、ビデオテープに録画することで現在と同じようなことが可能であったわけで、新たな保護が必要かというレベルから議論する必要が有るように思う。

対応策 B : 再生機器をセキュアプレイヤに限る

衛星放送のpay-per-viewが成立し続けるのは、その再生がセキュアプレイヤに限られているからである。だから、無料放送であってもセキュアプレイヤ以外で再生できないようにするのは悪い手段では無い。
ただし、この方式を的確に実装するためには、既存のB-CASカードを全数交換する必要がある。B-CASには有効な相互認証が盛り込まれなかったため*1内包する暗号鍵を更新する安全な手段は無い。
また、B-CASカードの新規発行を停止する必要もある。無反応機の運用にはB-CASカードが必要なため、市場に存在するB-CASカードの数を限定することには一定の意義が有る。
もちろん、今後制定する暗号化方式に関して、対応をセキュアプレイヤに限るのは決して無意味ではない。PC向け製品の展開は早急に諦めるべき。おそらく正確にデザインされず、間違いを招くだろう。
PC向けには、最低でもAACSCPRMのような既に機能している暗号化方式を導入し、継続的にアップデートする可能性を持たせることが必要で、そのためのコストはあまり安価でない。正確にデザインすれば機能する可能性は有るが、当初の目的であるコストダウンはより実現しづらくなる。

検討の問題点

B-CASに関する制度議論の問題点を端的に表現すれば"全てを事業者レベルで考えすぎている"。
ソフトウェアは匿名で配布することもできるし、悪いソフトウェアを取り締まることは非常に困難である。多くをソフトウェアにゆだねる方式はこの点で上手く行かない。(PC上で動作する)ソフトウェアの中身は分解すれば誰にでも読めるため、内容を秘匿することすら難しい。
事業者を取り締まることは比較的簡単と言える。ハードウェアを作るためにはそれなりの資金力や組織が必要なため、一箇所を抑えれば話は非常に簡単になる。B-CASカードの発行を受けていない受信機の製造元は数えるほどしかない。
ソフトウェアの作者を取り締まるのは非常に難しい。コンピュータウィルスの作者を突き止めることが難しいように、無反応ソフトウェアの作者を突き止めるのも難しいだろう。

何がいけなかったのか

個人的には"B-CASカードを発行したこと"が最大のミスだと考えている。最初から内蔵方式としていれば、フリーオのような機器を使うためには機器を分解してB-CASモジュールを取り出すという工作が必要になるため、これほどの問題とはならなかっただろう。
もちろん、内蔵方式にしても完全にコピーを防ぐことは出来ないが、少なくとも無反応機の製造をビジネスにすることが出来ないという点では重要な違いになる。ハードウェアはビジネスでなければならないが*2ソフトウェアはビジネスである必要は無い。保護はハードウェアで行い、違反者の手を(ハンダとヤニで)汚すことを前提にシステムをデザインしないといけない。

*1:なぜ他の有料放送保護と同じ方式にできなかったのかといえば、既存の有料放送保護方式は何らかのout of band通信(電話やインターネット、放送波)を必要とし、スケーラビリティに欠ける為。

*2:もっとも、この状況もそう長くは続かないかもしれない。