家庭用Dolby Atmosが発表される

というわけでDolby Atmosの家庭用展開が発表された。これは、ゲームサウンドにとっても、DVDによるサラウンドフォーマット導入と同等のインパクトを持つように見える。

AVメーカー各社もサポートを表明している。
... 各社といっても、今のところオンキヨー(+ Integra)、パイオニアDENON、Marantzなので、事実上高級オーディオベンダ2グループしか無くまだまだこれからといったところ。(パイオニアオンキヨーらに買収される)

スケーラビリティとトランスポート

まだ技術的詳細は公表されていないが:

BDプレーヤーは既存の製品で再生可能。
...
これらのAVアンプは、音場補正技術のAudyssey MultEQ XT32を使い、5.1.4ch(5.1ch環境をベースに4chを天井に設置)、7.1.2ch(7.1chをベースに2chを天井設置)した環境や、ドルビーイネーブルドスピーカーを使った環境で、9chのドルビーアトモスの音声を再生できるという。

ここから読みとれるポイントとしては、

  • 最初の製品からかなりのスピーカーバリエーションが発生する
    • 既存のサラウンドフォーマットのように特定のスピーカー配置を要求しないフォーマットとなる
  • トランスポートとしてHDMIを使用する
    • おそらくDolby True HDをそのままビットストリームフォーマットとして採用する
    • = 光デジタル(S/PDIF)では転送できない

つまり、PCや家庭用ゲーム機で"Dolby Atmos Live"を実現する布石は存在すると言える。今のところミドルウェアベンダ各社で直接的にサポートを表明しているベンダは存在しないが、ビデオカードHDMIDolby True HDビットストリームをサポートしているものが多いため、原理的には完全なソフトウェアソリューションで実現できる。ビットストリームのリアルタイム生成を行うことが課題となる。
ゲーム本体はスピーカーバリエーションに対応する必要は無い可能性が高い。BDで提供されるビットストリームがスピーカーコンフィギュレーションの数だけ提供されるとは考えづらいため、AVアンプ側で"レンダリング"を行う実装になるだろう。このため、ゲームが生成する必要が有るのも(BDと同様に)1つのビットストリームだけになると期待できる。
悪いニュースとして、S/PDIF等のレガシーなデジタル接続ホームシアターはアップグレードされる必要が有る。未だにステレオのファンが居るように、オーディオ環境はアップグレードされづらい傾向にあるためインストールベースの拡大は厳しい問題となるかもしれない。幸い、現在公開されているDolby Atmos映画は比較的好調なため、今年の年末商戦において(ハイエンド市場で)良い結果を残すことができるかどうかが注目される。

著作権/ライセンス問題

Dolby Atmosの最も興味深い点はオブジェクトベースであるというポイントと言える。家庭用Dolby Atmosがこのポイントを継承するかどうかはまだ未知数だが、ビットストリームのリバースエンジニアリングにより、オブジェクト単体のオーディオを抽出できる可能性がある。
逆に、この性質を積極的に利用して、ユーザが聴きたい音だけを抽出して聴けるようなプレイヤーが登場するかもしれない。

天井の難しさ

Dolby Atmosの重要な特徴は"上から降ってくるサウンド"を実現できるところにある。
映画館は専用の設備なので天井にスピーカーを要求することは大きな問題ではないが、家庭で天井にスピーカーが存在するケースはなかなか無いため問題になる可能性がある。これは結果的にバーチャルサラウンドやビームスピーカーが注目されることになる。
バーチャルサラウンドは多少分が悪い。上下方向の定位はバーチャルサラウンドにとって難しい問題であり、あまり良いソリューションが無い。HRTFベースのソリューションは以前から上下方向の定位を実現してきたが、既存のサラウンドフォーマットには上下方向の情報を持つものが殆どなかったため、良く検証されていない。
既存のフロントサラウンド(スピーカーを使用したバーチャルサラウンド)を改善する目的で採用される可能性は有るが、"追加料金"を払うだけの聴覚上の差を提供することは難しい。
天井は壁よりも普及しているため、天井に音を反射させるタイプのビームスピーカーは特に日本のような市場で有力なソリューションとなるだろう。Dolby自身が指摘しているように、既存のサラウンドスピーカーシステムに追加する形の製品が主軸になると考えられている。
配置の難しさによって、環境の多様化が進行すると予想される。
実際のサラウンドスピーカーを使用してサラウンド環境を実現しているところでは、天井スピーカーを何らかの方法で用意し、AVレシーバーを更新してでもDolby Atmosをサポートしようと考えるだろう。ヒット映画のソフト化でDolby Atmosが採用される可能性は非常に高く、再生可能フォーマットを完全にするための投資を惜しむことは無いと考えるのが自然と言える。
バーチャルサラウンド(バータイプスピーカーやサラウンドヘッドホン)を使用しているところでは、Dolby Atmosをサポートするかどうかは絶妙な問題となる。これらのバーチャルサラウンド製品のうち、ローエンド展開されるものについてはHDMIではなくS/PDIFを未だに採用しているため、原理的にDolby Atmosをサポートできない。Sonyのようにローエンド製品までHDMIを採用するようなベンダも有るが、それらのシステムがDolby Atmosの採用による聴覚的な差を生みだせるかがポイントとなる。
サラウンドヘッドホンについては、Dolby自身のDolby Headphoneがそれなりに普及しているため、これがサポートすることでDolby Atmosの普及が進む可能性がある。しかし、SonyのVirtualphones Technologyが高さ方向のチャンネルを持つPro Logic IIzをサポートしているのとは対照的に、Dolby Headphoneは今のところ5.1chのサポートに留まっている。