さよならWebOS?

HPがWebOS事業の終息を発表した。意外と早かったというのが感想だが、消えるには惜しいような気もする。

VirtualBoxで体験できるWebOS

WebOS SDKVirtualBoxを利用したエミュレータを持っている。そのため、通常のPCで動作するWebOSが既にあるということになる。SDKを入手するだけなら登録不要。
SDKをインストールすると、スタートメニュー → HP WebOS → WebOS SDK → WebOS emulatorがインストールされるので、そこから起動できる。ダイアログボックスには"無視"を押す。
一度エミュレータを起動すると今後はVirtualBoxから直接起動することができるようになる。

SDKの構成

Androidと比較して、WebOSは通常のLinuxディストリビューションにより近い。

この構成に最も近いのはAmazon Kindleだろう。
興味深いのは、標準のエミュレーション環境としてVirtualBoxを採用している点だろう。このVirtualBoxで実現されるエミュレーション環境にログインすると(rootによるSSHアクセスが提供される)" root@qemux86:/var/home/root# "というプロンプトが出るので、当初はqemuによってエミュレーションしていたと考えられる。
他のOSではiOSや昔のWindows CEがアプリケーションレベルのエミュレーションを用いている、つまり、開発ホストOS向けのランタイム環境だけを提供し、OS全体をエミュレーションしていないのに対して、LinuxベースのAndroidやWebOSはフルシステムエミュレーションを前提としている。
一般的なqemuに対してVirtualBoxを採用するのは速度面が大きいと思うが、SDKを仮想環境で使えなくなるというデメリットがある。もっとも、WebOSのSDK自体はMac/Windows/Linux向けに提供されるため、大きな問題では無いと判断されているのかもしれない。
ネイティブアプリケーションはOpenGL + SDLを使用した"プラグイン"という形で書かれる。このSDL開発環境はVisualStudio/XCode統合まで提供され、Windows上で動作するSDLビルドも可能となっている。

何が不味かったのか

個人的には、WebOSほど"正しい"デザインのモバイルOS環境は他に無いと思うので、WebOSが無くなるという事実は他の"独自"LinuxベースモバイルOS - 例えばMeeGoやbada - に警鐘を鳴らすと考えている。
WebOS亡き後に正しいのはMozillaの"Boot to Gecko"だろう。

  • スケーラビリティの欠如

WebOSはAndroidに比べてスケールしない開発モデルと内部構造を持っていた。
ハードウェア1社でプラットフォームを普及させるのは非常に多大な努力が必要で、Appleや家庭用ゲーム機のようなケースは本当に例外中の例外としか言いようがない。
逆に言えば、これらが備えている1) 必然性のあるハードウェア環境 2) コアコンピタンス(ブランドやゲームなどの差別化アプリケーション) 3) 開発環境をHPが同様に備える必要があった。

  • フォーカスのないデザイン

only for WebOSな機能はほとんど無かった。常識的に機能するマルチタスクくらいか。。
PalmOSにはZen of Palmが有ったが、WebOSには基盤ソフトウェアに差別化要素が無いように思える。HPはAppleのようにiTunesを持っているわけでなければGoogleのようにGMailを持っているわけでも無いので、可能な限り特殊なハードウェアを売れるようにシステムをデザインするべきだった。
例えばPalmはシステムが小さかったので腕時計型端末等も出すことができた。しかし、WebOSはAndroid等に比べて"大きな"システムで、webOS端末のラインナップはAndroid端末の部分集合にしかならない。

どうすべきだったのか

率直に言って、もうLinuxプラットフォームには椅子がない。Androidがいかに不味いシステムであっても、これからAndroidとシェアで争うのはあまり賢い戦略に思えない。
一度プラットフォームが寡占状態になると、あとは"押し売り"しかない。押し売りをするにはAppleのように特殊なハードウェアを売るか、Googleのように特殊なサービスにlock-inするくらいしか手段がない。(なんと夢がない!)

  • A) やめる

端的に言うとするなら、どうやってもダメだったとしか言いようがない。もっと早いタイミングでやめておくべきだった。

例えばRIMはQNX上にAndroid互換レイヤをつくろうとしていると噂されている。WebOSも同様の努力をすべきだったように思う。
もちろんIn-app purchaseを制御したかったとかいろいろと政治的な事情は有るかもしれないが、乗り換えの障壁を取り除くことを先決にする必要があった。

  • C) PC向けアプリケーションとの互換

Androidに比べて素直な環境なので、既存のPC向けアプリケーション - 特にゲーム等 - を一定のレベルで提示して注目を集めるのは悪くない戦略に思える。

  • D) PC向け環境の提供

当初、WebOSはHP製のPCにも搭載されるという触れ込みだった。何故かHPはこれを先にやらずにプラットフォームを普及させる方向に持っていったが、先にPC向けWebOSを一定の品質で提供する方が理にかなっているように思える。
例えばAdobeAdobe Air向けにIn-app purchase機構を提供しているわけではない(ie. AdobeはInMarketを辞めた)ので、PC向けのクロスプラットフォーム開発環境でこれを真っ先に実現することには一定の意義が有る。GoogleChrome web storeとは競合するが..